2000年1月。
「BUENA VISTA SOCIAL CLUB」日本公開。
会社を休み、平日の午前中に出かける。

あのメロディが流れ始める。
すべての感覚がスクリーンに向かう。

当初はこのプロジェクトが西アフリカと
キューバのミュージシャンのコラボゼイションの予定だった事を知る。
アフリカ・サイドがキューバに入国出来なかったため急遽
老ミュージシャンが集められた。

このセッションに参加するまでの3年間はたいした仕事もなく
靴磨きをしていた72歳のイブライム・フェレール。
ハバナを散歩しているところをレコーディング当日に
スタジオに連れていかれた。

伝説的なミュージシャンでありながら指の関節炎のため
演奏活動をやめていた77歳のルベーン・ゴンザレス。
もはや自宅にピアノさえない。
レコーディングの日、朝からスタジオの前にあらわれ
ドアが開けられると、ピアノに向かって走りだした。

イブライム・フェレールがマイクの前で第一声を発した時。
ルベーン・ゴンザレスが数年振りに鍵盤に指をおいた時。

音楽が解き放たれた。驚きと幸せな時間がながれた。

90歳を越えた、コンパイ・セグンドの葉巻から、ゆっくりと煙が吐き出される。

しばし音楽に身を任せ、映像を目で追う快感をあじわう